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大阪高等裁判所 昭和25年(う)3711号 判決 1951年5月21日

控訴人 被告人 龜井美幸 外三名

弁護人 平田栄之助 外二名

検察官 米野操関与

主文

原判決を破棄する

被告人佐伯孝を懲役一年六月に

被告人村上竹一同亀井美幸同中村錠吉を各懲役一年に各処する。

被告人村上竹一同亀井美幸に対し本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

神戸市葺合警察署司法警察員の押収した生ゴム三百四十一梱包(但し昭和二十四年二月七日松波正夫の靴製造工場から差押えた二百五十四梱包及び同月十三日時伊太郎の倉庫から差押えた八十八梱包中盗難にかかつた一梱包を除いた合計)は被告人佐伯、同村上、同亀井から没収し差押不能の生ゴム六十六梱包(但し原先元豚小屋へ運搬した分)の原価三十七万六千六十八円中その半数の原価十八万八千三十四円を被告人佐伯、同村上、同亀井、同中村からその残額を被告人佐伯、同村上、同亀井から追徴する。

本件密輸入の用に供した船舶田子丸及び大黒丸の価額合計金五十二万四千三百円を被告人佐伯、同村上、同亀井から追徴する。

原審における証人永谷喜作、同竹田徳則、同中島俊太郎、同梶川正一、同高野巖、同斎藤光男に支給した訴訟費用の六分の一宛を被告人等の各自負担とする。

理由

被告人佐伯孝、同村上竹一の弁護人岡本徳の控訴趣意第二点にいて。

しかし原判決挙示の証拠によると、本件密輸入に使用された船舶たる田子丸及大黒丸の価額は必ずしも算定不能なりとはいゝ難く、かえつて原判示のごとくであることが認められるし、右は何ら実験則に反する不合理な判定ともいうを得ない。論旨はその理由がない。

同第三点について

しかし密輸行為自体と押収の有無、能否とは全然別個の観念であるから、いやしくも本件において原判決挙示の証拠により原判示密輸事実が認定できる以上、右認定にかかる密輸入生ゴムの数量に対する説明がないからといつて、原判決の違法を招来するものではない。本論旨もまたその理由がない。

同第一点について。

原判決挙示の証拠によると、同被告人等は原判示のごとく、他の被告人等その他と共謀の上和歌山県日の岬沖合で外国汽船から原判示生ゴムを積取りこれを原判示場所に陸揚する等の行為を分担実行しており、他にこれを覆するに足る資料がないのであつて、これらの行為はまさに関税法にいわゆる密輸入の実行行為に外ならないから、これをもつて単なる幇助に過ぎない旨の所論はあたらない。

しかし本件訴訟記録を検討すると、同被告人等に対する原審の科刑は重過ぎると認められるから、科刑不当の論旨はその理由がある。

被告人亀井美幸弁護人平田栄之助、村田定由の控訴趣意第一点について。

しかし関税法第八十三条第三項にいわゆる犯人というのは当該密輸入事件の犯人という趣旨と解すべきであるからいやしくも同被告人が本件密輸入事件に共謀加担した事実にして存する以上、犯罪行為に供した船舶が没収不能の場合においてこれが価額を追徴すべきこと当然である。

また同条項の追徴は被追徴者数人ある場合において、本来すべて全部義務を負担すべきものと解するのが相当であるから(大審院昭和三年二月三日言渡判決参照)いやしくも原判決が当然追徴すべき同被告人から追徴した以上、その措置は適法であつて、他の共犯者から追徴したかどうかというような他人の利害に関する原判決の処置を批難することは、右被告人の控訴理由としては適法ではない。論旨はいずれも採用し難い。

同第二点について。

原判決の採用したような鑑定は必ずしも理想的とはいえないが船舶が所在不明なる以上やむを得ない次善の方法として是認すべきであり、もとより単なる不確定な推定と同一視するを得ないのみならず、他に右鑑定の結果を不当とすべき資料もないから、原判決がこれに基ずき本件田子丸及び大黒丸の船価を認定したのは相当であり、これに対する批難はあたらない。

中村錠吉弁護人平田栄之助、村田安由の控訴趣意第一点について。

しかし原判決挙示の証拠によると、原判示第二の(三)の教唆事実を推認ができるしこれに牴触する所論同被告人の供述は爾余の証拠にてらし必ずしも真相に合致するものとは認め難いから、事実誤認の論旨は採用し難い。

同第二点及び被告人龜井美幸弁護人平田栄之助、村田安由の控訴趣意第三点について。

各所論に鑑み記録を精査すると、同被告人等に対する原審の科刑は重過ぎると認められるから論旨はその理由がある。

以上の次第であるから、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第四百条但し書に従い原判決を破棄し更に裁判をする。

原判決が証拠により確定した各事実にその摘示した各法令(但し被告人村上竹一同龜井美幸については更に刑法第二十五条)を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

被告人亀井美幸の弁護人平田栄之助、村田定由の控訴趣意

第一点原判決は法律の適用を誤つて居り其の誤りは判決に影響を及ぼす事が明かである。

原判決は関税法第八十三条第三項を適用して本件密輸入の用に供した船舶田子丸及び大黒丸の価格合計五十二万四千三百円を被告人佐伯、同村上、同亀井三名から追徴すると判決したのであるが、関税法第八十三条第三項は同条第一項の規定を受けた規定であつて同条第一項には犯罪行為の用に供した船舶にして犯人の所有又は占有に係るものは之を没収すると規定して居り此の場合の没収は、所有者又は占有者から没収するとの法意であると解する。果して然らば同条第三項に犯人より追徴すると規定せられてあるのも第一項同様所有者又は占有者から追徴するとの法意であると解釈しなければならない。被告人亀井は前記田子丸及び大黒丸については其の所有者でもなければ又占有者でもない。証拠の示す所によれば田子丸は佐伯脇舎大西の共有船であり大黒丸は浜磯の所有船である。被告人亀井は田子丸に乗組んで居た一使用人に過ぎない。大黒丸に至つては被告人亀井は全然関係が無いのである。右田子丸及び大黒丸の価格を被告人佐伯より追徴すると言ふのであれば兎も角、所有関係も占有関係もない被告人亀井からも追徴すると言うのは適用すべからざる法令を適用したものと言はねばならない。

若し又関税法第八十三条第三項に謂ふ犯人とは没収の対象物となる物件の所有又は占有とは関係なく単に当該密輸入事件の犯人との意味であると解するならば何故原判決は被告人尾野同松永からも之を追徴しなかつたであらうか或は同人等は密輸入の正犯でなく幇助者であるとの見解かも知れないが幇助犯と雖も犯人たる事に間違いはないのである。而して関税法第八十三条第三項には追徴する事を得とは規定していないのであつて追徴す、と規定しているのであるから犯情によつて追徴の如何を左右する自由裁量は許されないのである。此の点から謂へば原判決は被告人尾野、同松永から追徴しなかつた点に於て法令の適用を誤つたもので、孰れにしても適用を誤つてゐるのである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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